
木材認証は即効薬ではない
IDEAL代表、ウォン・メンチュオ
十年ほど前に木材認証というアイディアが考え出されたころ、環境や社会問題に取り組むNGOをはじめ、多くの人々はそれが森林管理や労働条件の改善に結びつくことを期待した。先住民族の土地権問題の解決に貢献することを期待した人たちもいた。
現在「森林認証は岐路にある」と欧州の森林問題監視NGO、FERNのサスキア・オジンガ氏は言う。彼女は初期的な結論をいくつか述べる。認証制度は主に北の国で森林管理の改善に結びついたが、大きな前進はなかったと彼女は言う。「認証制度は主に南の国で労働条件の改善に貢献したが、これも大きな進展はない。認証制度は土地権問題に目を向けさせたが、本当に解決に貢献したとは言えない」とオジ
ンガ氏は付け加える。
FERNは最近、8つの森林認証制度の調査を実施した。ブラジル、チリ、カナダ、オーストラリアおよびマレーシアの国内制度5つ、およびヨーロッパのProgramme for the Endorsement of Forest Certification (PEFC)と米国・カナダ向けに米国で策定されたSustainable Forest Initiative (SFI)という2つの地域制度などを対象とした。もう一つ調査したのはForest Stewardship Council(FSC)と呼ばれる制度で、経済・環境・社会の三つの側面を網羅するグローバルな原則を謳っており、今のところ最も信頼性の高い制度と考えられている。
認証制度は適切に管理された供給源からの木材製品に対する需要を高めるに至ったとFERNは指摘する。過去3年間に認証された森林の面積は二倍以上に増え、1億5000万ヘクタールを超えた。しかし森林管理が同様に改善されたかどうかは疑わしい。今ある認証制度の多くは伐採会社に管理を大幅に前進させることを義務づけていないことが評価作業で明らかになった。多くの場合「旧態依然とした業務(business as usual)」が認証されている。最も悪質な例として、オールド・グロース(原生)林や土地権争議で係争中の森林、遺伝子組み替え品種(GMO)の樹木プランテーションに転用された森林からの製品が認証されるケースがある。
また森林管理は単に技術的な問題でないことも明らかになってた。認証制度は森林管理を改善する重要なツールだが、その影響を過大評価すべきではないというのが多くのNGOの共通見解である。「土地権や利用権に関わる森林法の改正、そして生物多様性条約(CBD)や国連森林フォーラム(UNFF)の下での政府の義務履行に同じだけの関心を注ぐ必要があり、おそらくその方が重要だろう」とFERNは論じる。
森林認証制度は特に西ヨーロッパの市場動向に呼応した動きである。認証制度の定める規準に従ってラベル付けされた製品を消費者に提供しようとする生産者の任意の取り組みである。持続可能な森林管理は、持続可能な木材供給だけではなく、社会、環境、文化、精神面を含む森林のあらゆる価値を守るものでなければならないことは普遍的な合意事項である。森林の利用者には地元住民や先住民族、政府機関、環境NGO、伐採会社、伐採権保有者などが含まれるが、森林管理に関しては複雑な利害関係があり、対立する場合も多い。
このため持続可能な森林管理は自ずから複雑で意見の分かれるテーマであり、どういう森林施行が良いのかを決定する客観的な、あるいは単純な答えもない。持続可能な発展という観点から言えば、良好な森林管理は環境、社会および経済面の利害を調整することが条件となる。認証基準は、それを定める人々の利害関係や背景、価値観、経験によって左右される。基準の設定は価値判断に影響され、立場によって変わってくる。「国際的な議論の最大の焦点は、認証制度の信頼性をどう確立するか、より根本的には誰がどのような過程で森林管理基準を定めるのかという問題である」とマルク・シムラ氏およびエワルド・ラメイシュタイナー氏は語る。
この議論は、より広い視点に立って捉えるべきであるとFERNは論じる。「あまりにも長い間、森林管理とは幾つかの環境面に配慮をしながら木材を持続的に供給することとして定義されてきた。しかし森林管理は、多くの人々が支持する、国の森林の未来に関する展望・ビジョンを作ることから出発すべきである」とFERNの報告書は結論づける。これは政治的なプロセスであり、単に技術的に扱えるものではない。このビジョンを作る際は、森林を所有し利用する地元住民をはじめ、全ての利害関係者が対等な立場で参加する必要がある。
八つの認証制度を調査したところ、いずれも基準策定過程で森林産業が主導権を握っていることが明らかになった。SFIの場合、基準は経済利害グループによって一方的に定められている。FSCでは確かに経済、環境および社会面の利害関係者が基準を定めるプロセスに参加することを義務づけているが、それを徹底しているわけではない。森林法が正しく機能しておらず、土地に対する権利が保障されない国でも、国内基準もないまま森林認証を行うことを許しているからである。インドネシア、タイ、マレーシアなどの国でFSC認証は林業政策や司法制度の改革を求める地元住民や国内の動きを却って妨げていると批判されてきた。
認証基準は、必ず、様々な利害関係者がバランス良く参加する場で作るすべきであると報告書は論じる。森林認証は市場原理を活かした手段であり、発達した森林政策・規則を既に持っている国では効果的である。国内基準が存在しない場合は認証を行うのは困難であり、細心の注意を払うべきである。
マレーシアにおける木材認証基準の策定は1994年まで遡る。国際熱帯木材機関(ITTO)のガイドラインに基づくオランダのKerhoutスキームとの協力の下で、マレーシア木材認証協議会(MTCC)の国内制度により森林経営認証が最初に行われたのは1999年だった。制度は2001年に改定され、その基準は「マレーシア基準・指標(MC&I)」と呼ばれるようになった。2003年11月時点で七つの州にある総面積410万ヘクタールの州有林が認証された。セランゴール、パハン、トレンガヌ、ペラ、ネグリセンビラン、ジョホール、ケランタンの七州である。
MTCC制度は係争中の森林に対する地元住民・先住民族の土地権を認めて来なかったため、信用できないものと考えられてきた。全ての利害関係者が対等な立場で参加できていない点も批判されている。実際、NGOや地元住民の参加なしに始まっていた。途中の1999年にMTCCが設立された頃にWWFマレーシア、Malaysian Nature Societyなど幾つかの環境NGOが初めて参加の招待を受け、その後で社会問題・環境問題に取り組む他のNGOも招待された。しかし、先住民族の権利を確保するという最大の関心事が蔑ろにされていることを理由にNGO 14団体のグループが2001に脱退した。その後、三つの関心分野を反映した全ての利害関係者の参加なしに基準策定が続けられてきた。
特に西ヨーロッパにおいてマレーシア認証制度の信用度は低く、マレーシアの木材製品の市場シェアは萎んでいる。ヨーロッパでMTCCを認めている国は、木材製品の合法性を主な関心事とするデンマークだけである。ちなみにデンマークはデンマーク国際開発事業団(DANIDA)のプロジェクトの下でマレーシアと幾つかの環境プログラムを二国間で実施している。
NGO 14団体との意見調整にあまり努力が注がれなかったことは残念である。逆に一次産業大臣リム・ケン・ヤイク氏はマレーシアの木材製品を売り込むために2003年7月にヨーロッパを訪問した際、MTCCに参加しないNGOや先住民族に責任を押しつけようとした。彼はNGOをマフィアと呼び、プナン人は地球上でもっとも遅れた部族だと罵倒した。
その傍らで地元NGOや先住民族はMTCCを拒否する署名キャンペーンを開始している。
一方、MTCCでは2005年以降に活用すべき新基準として「FSCに適合したマレーシア基準・指標」MC&I (2002)を採択している。MTCCでは、FSC制度の下で新しい国内作業班を設立する目的で2004年1月にサバ州、サラワク州、マレーシア半島部で地域協議を開催した。独立した組織を結成することを目標に掲げているが、参加しているのは同じ「MTCCの顔ぶれ」である。主導権を握る木材業界の関係者と政府官僚の態度が根本的に変化しない限り、この取り組みで利害関係者の参加が改善されるとはあまり思えない。
MTCC制度は、具体的な実施目標を定めない、システムに関する基準であるとFERNは分析する。「システム基準は組織が実施状況を把握し改善するのを助ける強力なツールになり得る。しかし最低限達成すべき実施目標を定めるものではない。森林管理組織が自ら実施目標を定める必要があり、その達成を管理システムにより促すものである。」システム基準だけでは成果の質が保証されないことは明らかだ。
「実施基準は森林で達成すべき実施レベルもしくは成果を明確にし、質を保証する。実施基準では、たとえば森林管理区の10%を保全のために手つかずの状態に保つこと、遺伝子組み替えの樹種を使わないことなどを義務づけるかもしれない。このように実施基準とシステム基準は互いを補い合うが同一ではなく、提供するメリットも全く異なる」とFERNは説明する。
FERNは、以下の三点でMTCC制度を改善することを提案している:
・地元住民・先住民族の土地に対する権利を全面的に認め、その全面的な参加を図ること。
・環境・社会問題に取り組むNGOおよび先住民族の代表者が基準策定と認証プロセスに完全な形で参加できるようにすること
・最低閾値に基づく本格的な実施基準を設けること。