
マレーシアの木材認証制度について(その1)
(ウォン・メンチューさん(IDEAL)の報告書を抄訳・編集)
持続可能な森林経営を促進する手段として、第三者機関による木材認証制度とラベリングへの取り組みが近年、盛んとなっている。世界自然保護基金(WWF)をはじめとするNGOが提唱するForest Stewardship Council (FSC)が最も有名であり、各国で認証された生産林やFSCマークの付いた木材製品も徐々に増えている。FSCでは、NGOや住民組織が業界と対等な立場で運営に関わり、森林経営に関して環境、社会、経済面で比較的厳密な基準を設け、伐採から加工、流通、販売に至る一連の管理体制(Chain of Custody、略してCoCという)も認証する制度を整えた。環境や人にやさしい木材が付加価値となり、需要を作り出す市場原理を環境保護に生かそうとするものである。こうした中で、アメリカのSFIやヨーロッパのPEFCなど産業界が中心となって国や地域のレベルで進められている他の木材認証制度やラベルがいくつか登場している。破壊的な森林伐採が批判されてきたマレーシアでもMTCCという木材認証制度が生まれている。いろんなラベルに消費者が戸惑うことも懸念され、認証制度の中身を当必要性が高まっている。
マレーシア政府は数年前までこうした木材認証の取り組みを熱帯木材への差別扱いとして厳しく批判することが多かった。しかし、特にヨーロッパでサラワク材をはじめとする熱帯木材の輸入量・消費量が著しく減少する中で、マレーシア政府も、マイナス・イメージを解消して再び欧州市場に参入する糸口をつかむためにも、90年代半ばから木材認証制度に目を向けるようになった。1994年4月にマレーシア一次産業省とマレーシア木材産業開発協議会(MTIDC)が「持続可能な森林経営による木材に関するセミナー」を開催したことを皮切りに、政府機関、研究所、産業界による全国委員会(NC)が結成された。1998年10月にはマレーシア自然保護協会とWWFマレーシア(2002年1月に辞任)を理事会に加えて全国木材認証協議会(NTCC)を設立し、2001年にはマレーシア木材認証協議会(Malaysian Timber Certification Council、MTCC)に名称が変更され、現在に至っている。
MTCCは、木材輸出税による3600万リンギ(約765万ユーロ)の基金を主な財源として、学術・研究開発機関、木材産業、NGO、政府機関からなる理事会(Board of Trustees)によって運営されている。国際熱帯木材機関(ITTO)の「天然熱帯林の持続可能な経営のための基準と指標」をベースとして「マレーシアにおける森林経営認証のための基準と指標、活動、運用基準」(MC&I 2001)および「加工・流通管理体制(CoC)の認証のための条件と評価手順」を関係当事者による協議により策定し、森林経営単位(FMU)の認証をすでに開始している。森林認証の対象は永久林(Permanent Forest Estate)に限定されている。2003年10月の時点でマレーシア半島部の7つの州の州有林、計411万ヘクタールが森林経営に関する認証を取得し、加工・流通業38社がCoC認証を取得している。また、2003年12月末までに合計6869立方メートルのMTCC認証木材がオランダ、ドイツ、ベルギー、イギリス、フランス、オーストラリアに輸出されている。
MTCCでは、1999年からFSCとの話し合いを行っており、FSCからの認定を受けることを目指してMC&Iの改訂作業も行っている。FSCと共同でMC&IとFSC基準の比較検討を行い、改善についての提案をFSCから受けている。こうした改善点を一部盛り込んだMC&I 2002年版標準を2002年10月に策定した。2005年1月以降は、MC&I 2002による森林認証を行うことになっている。
NTCCのリーフレットでは、木材・木材製品輸出(98年は37億ドル)がマレーシア経済で果たす重要な役割、そして森林が生物の多様性、土壌、水などを保全する上で果たす役割を重視して全国で1433万ヘクタールに及ぶ永久林(Permanent Forest Estate)を設けていることについて述べ、木材認証制度を進める意義を次のように説明している:
「森林破壊や関連する環境問題への関心の高まりから、木材などの林産物の消費者はこうした製品がしっかりした森林経営によって生産されたことが保証されることを望むようになっている。この点で、木材認証制度は生産国で持続可能な森林経営を促す、市場と連結した手段として推進されている。マレーシアは熱帯木材・木材製品の主要な輸出国として、持続可能な森林経営をさらに促進し、市場の要求を満たすために木材認証制度を導入しようとしている。」
しかし「木材製品が正しく管理された森林から生産されていないという間違ったイメージで貿易が悪影響を受けているヨーロッパへの木材製品輸出をマレーシアは再開したいのだ」と一次産業大臣リム・ケン・ヤイク氏が語ったところに政府の本音を垣間見ることもできる。
MTCCの組織とプロセスの問題点
1994年から1988年まで持続可能な森林経営に関する全国委員会(NC)は、住民やNGO不在のまま、政府省庁、研究機関、業界団体だけでITTOの基準と指標をベースに議論をしていた。1998年10月に全国木材認証協議会(NTCC)を設立した時には、学術機関、木材産業、政府機関、NGOの4部門から2名ずつ計8名(任期2年)の理事会が結成され、マレーシア自然保護協会とWWFマレーシアが理事に加わった。しかし、関係当事者のバランスある参加がないまま認証制度を進めようとするMTCCのやり方に異議を唱えたWWFマレーシアは2002年1月に理事会から辞任している。
MTCCでは、一応、NGOや先住民族団体、住民団体などを交えた地域レベルと全国レベルのインフォーマルな協議を行った上でMC&I標準を策定してきたが、MC&Iの草案作成に市民やNGOが十分に参加できたわけではなく、協議もMC&I採択の直前に非常に限られた時間で行われ、協議で出された意見が適切に反映されないまま標準が採択されることが続いた。
たとえば、1999年10月に半島部、サバ州、サラワク州でそれぞれ、MC&IをITTO基準・指標に準拠したものにするための地域レベル協議が行われた時は、半島部ではバランスある参加が得られたが、サバ州とサラワク州ではNGOや住民団体の参加がなかった。その直後、1999年10月に行われた全国レベルの協議では、参加者の21%がNGOだったが、先住民族の慣習的な権利などをMC&Iに明記すべきだと5つのNGOが主張したにもかかわらず、その意見が反映されないまま1999年版MC&Iが策定された。
2000年12月にはNTCC、FSC、WWF、Tropical Forest Trust、ドイツ政府技術協力局(GTZ)の共催で「森林認証に関するワークショップ」が行われ、MC&IをFSCの基準と調和させる上での問題点が話し合われ、標準改訂のための全国実行委員会(NSC)が結成された。FSCのプロセスでは、社会、経済、環境という三部門から同数の委員が標準を議論することになっているが、業界の強い要望で「資源管理者」という第4部門がNGOなどの反対を押し切って設けられることになった。ワークショップに参加したNGOや住民組織、20団体の半数は、十分な協議が行われなかったと不服を表明する共同声明を出した。そして2001年7月には、先住民族の権利に関する自分たちの懸念や意見が反映されていないことに抗議してMTCCプロセスから脱退し、JOANGOHutanという連合組織を作った。JOANGOHutanは「森林経営に利害関係のある全ての当事者が対等に参加する協議に基づく、開かれた風通しのよい森林認証基準策定プロセス」を要求した。
その後、FSCに準拠したMC&Iを策定することを目的とする全国実行委員会(NSC)には、WWFマレーシア、マレーシア自然保護協会、サバ州ロータリークラブ、建築・木材加工業労働組合連合会など、一部の団体が環境・社会部門から参加したに過ぎず、先住民族や住民の権利を擁護する声が弱くなった。NSCは、半島部、サバ州、サラワク州の3地域から社会、経済、環境、直接資源管理の4部門の代表者2名ずつ集まり、計24名で構成された。NSCは2001年4月から2002年8月までに5回の会合を行い、MC&IをFSCに準拠させるための検証基準(Verifiers)を作成する4人の技術作業班(TWG)を設けた。技術作業班が作成した検証基準案は2002年4月から8月にかけて半島部、サバ、サラワクで行われた地域協議に諮られた。この地域協議も参加のバランスを欠くものとなった。例えばサラワクでは、参加した22団体のうち、社会・環境部門はわずか4団体、つまり与党の政治家が代表する2つの先住民族組織と森林省職員組合を含む2つの労組に過ぎなかった。2002年10月にクアラルンプールで全国協議が行われ、MC&I 2002年版が採択されたが、その時も参加者106人中、社会・環境部門は、WWFマレーシア、マレーシア自然保護協会など一部の環境NGO、そして与党寄りの先住民族組織など14人に留まった。
MC&I標準 2001年版の中身
「マレーシアにおける森林経営認証のための基準と指標、活動、運用基準」(MC&I)は、これまで3回改版されている。ITTO基準と指標に基づく1999年版と2001年改訂版(MC&I 2001)、FSCの基準をベースにしたとされる2002年版(MC&I 2002)がある。現在、MTCCの森林経営の認証は2001年版(MC&I 2001)を使って行われ、2005年1月からは2002年版(MC&I 2002)が使われることになっている。MC&I標準は、様々な「基準・指標」、それに関して取るべき「行動」、基準を満たしているかどうかを判断するための「運用基準」の一覧表の形を取っている。しかし、基準の厳密さには疑問がもたれる。MTCC/FSCからの依頼でMC&IをFSC基準と比較したSandom & Simulaの報告書では「MC&Iの基準を満たす最低限の実施レベル、あるいは不合格の基準が定義されていない」ことを指摘している。この報告書によれば、MC&Iの最大の欠点は、具体的な成果(アウトプット)ではなく、インプットに重点を置いている点だという。
「MC&Iの指標の大半は、適切な法律、文書、システムの存在を保証することに重点を置いている。つまり、インプットの質と量を評価するものである。しかし、MC&Iでは、成果(アウトプット)に関連した基準もしくは指標は比較的少ない。」
法律上の問題
MC&Iでは、連邦及び各州の関連する法律や規則が「運用基準」として頻繁に挙げられている。しかし、法律を引用するだけでは、特にサラワク州で住民の土地権をめぐって争われている法律上の問題を解消したことにはならない。先住民族の慣習法(アダット)はマレーシアの法体系で認められているにもかかわらず、実際には蔑ろにされている場合が多いからだ。森林の多くは、先住慣習法に基づき、明確な境界線をもった共有林として住民に長年利用されてきたにもかかわらず、住民は土地権証書をもたないために度々権利を無視されてきた。MTCCの1999年の全国協議で5つのNGOがこの問題を次のように訴えた:
「[森林認証の対象である]森林経営単位(FMU)を確立するためには、森林が永久林(Permanent Forest Estate、PFE)に指定されなければならないことになっている。しかし、サラワク森林条例では、永久林において全ての先住慣習権、そして土地や資源に対する地元先住民族共同体の権利が抹消されると明記されている。(Yong 2001)」
つまり、MTCCによる木材認証でかえって先住民族に対する不正が助長され、憲法に謳われた市民の権利も侵害されることになりかねないのである。NGOらは、この問題をサラワク州政府に提起するようMTCCに要求し、MTCCも手紙をサラワク州政府資源計画・管理省に送っているが、問題は未だに解決されていない。
社会・経済的側面
「経済、社会、文化面に関する基準」を記すMC&I 6章には、住民や労働者の権利に関する項目がいろいろ挙げられているが、実効の乏しいものが多い。先住民族と地元コミュニティーの権利に関する6.8項では、「森林経営単位における地元コミュニティーの法的・慣習的権利のリストと説明を作成し、森林に関する計画、経営の実践、関連プロセスで、関係当事者との協議に基づき、それらに関してどのような配慮や認知をしているのか説明すること」となっている。また、6.9項では、森林経営単位内で先住民族や住民がどの程度、森林に関わる社会経済活動をしているのかを報告することが義務づけられている。これらは明らかに報告義務に過ぎず、守るべき最低基準は何も定められていない。また、6.7項では「森林経営単位における住民の保有権、使用権に関するリストと説明を作成し、それらがどの程度守られているのか説明すること」になっているが、その基準として「永久林の指定に関する答申」と「サラワク州政府官報」という政府文書を参照することになっている。しかし、これらの文書は様々な解釈の余地を残しており、官報の通達で住民の土地権が抹消されたことが裁判で争われることも増えている。たとえば、数年前、ルマ・ノル裁判では裁判所が住民の権利を認め、BPP社へ暫定的借地権の変更を州政府に要求している。
MC&I 6章には労働者の健康や安全、雇用機会の創出、研究・教育・レクリエーションのための場所や地元コミュニティーが直接利用できる場所の特定、住民の保有権・使用権の記録と尊重といった項目も含まれているが、最低限守るべき基準は定められていない。たとえば、雇用人数や賃金に関する雇用データを記録することになっているが、達成基準はないに等しい。(伐採現場やプランテーションでは地元住民よりもインドネシアからの移住労働者が低賃金で多く雇用されているにもかかわらず)地元住民を雇用する割合についても、法律で定める最低賃金の遵守についても明記していない。サバ州でだけ、従業員の最低5%はマレーシア人でなければならないとしている。
文化・精神面
1999年版MC&Iには、「考古学的・文化的に重要な場所の数を特定し、地図に明記し、保護すること」になっているが、2001年版MC&I[実際の認証に使われている版]からは、この基準は消えている。つまり、コミュニティーの礼拝所や墓地などは守られないということである。この二十年間、聖地や墓地が伐採業者に汚され、破壊されたことに対して先住民族は度々抗議してきた。この点に関する基準がMC&Iになければ、このような権利侵害が増え続けることは間違いない。また、1999年版MC&Iには「自給自足や伝統・慣習的ライフスタイルのために森林に頼る住民の人口」やその森林の面積を明記することになっていたが、2001版からは項目が削除されている。
環境面
MC&I 2001の4章「生物の多様性」と5章「土壌と水」には、環境保全に関する様々な項目が記載されているが、その「運用基準」は概して不完全で曖昧であり、半島部、サバ州、サラワク州の3地域で基準はバラバラである。5.2項の「環境面で影響を受けやすい地域の保全」に関しては、サバ州とサラワク州では「運用基準」が何ら明記されていない。4.2項「環境保全のために[切らずに]保留する森林」に関しては、半島部では森林経営単位の5%という基準を明記しているが、サバ州とサラワク州では基準は設けられていない。4.1項「絶滅の危険のある希少な動植物を特定する手続きの存在と実施」に関して、サラワク州の場合は「伐採前に目録を作成する手順」と書いてあるだけで、具体的には何も定めていない。4.3項「収量評価区と長期生態学調査区に関する手続き」、5.4「影響を受けやすい場所を土壌と水の保全のために特定し、区画する手続き」に関しても同様な曖昧な記述になっている。また、5.1項「土壌と水の保全」と5.3項「緩衝帯」に関しても、サラワク州では「一般伐採計画」と「詳細伐採計画」を作成することを「運用基準」として挙げているに過ぎない。
また、MC&I 1999年版にあったのに2001年版から消えている環境基準も少なくない。たとえば、「遺伝学的な多様性の保護」、「外部の集水域にとっての森林の価値を伐採前に記録すること」、「伐採前に排水路を特定し、区画し、保護すること」、「生産林から出る河川の水質の変化を評価し、人手が入っていない同様の森林から流れる河川と比較すること」、「森林生態系の健全さ・状態の評価」と行った項目が消えている。川の汚染による住民の健康被害や経済的な悪影響、林道建設や密猟、森林火災など生態系や住民への影響を評価する重要な項目である。また、プランテーション周辺で病害虫などの大量発生が報告されているにもかかわらず、アカシア・マンギウムなど外来早生樹種のモノカルチャーの問題点に関する当初の基準も削除されている。
「FSCに準拠した」MC&I 2002年版は?
上述したようにMTCCは、FSCから承認を受けることを目指して1998年からFSCとの話し合いを続けており、MC&IとFSC基準の一致点と矛盾点の評価も外部専門家に依頼し、FSC基準をベースとしたMC&Iを作成するために全国実行委員会を結成し、MC&Iの改訂作業を重ねてきた。その成果としてMC&I 2002年版が2002年10月に策定された。この文書では、FSCの基本原則と指標、そして対応するMC&Iの指標と検証基準を打ち出している。
確かにMC&I 2001年版は、MC&I 2001年版にない基準と指標をいくつか盛り込んでいる。例えば、原則2では地元住民や先住民族の法的・慣習的保有権に配慮することを謳っている。しかし、指標では、先住民族の慣習的な土地権を証明する文書の提示が前提となっており、住民はこのような文章を提示することが困難な場合も多い。また保有権・使用権に関する争議を解決する仕組みに関する指標も具体性を欠く。単に「全ての争議の記録」、「適切な仕組みの存在」といった抽象的な表現が使われている。
原則3「先住民族の権利」も似たような状況である。指標は様々な文書の存在が前提となっており、検証基準は、先住民族の慣習的な概念や慣習法を適切に反映していない既存の法律に基づいている。基準3.4「森林の樹種や管理に関する先住民族の知識の活用に対する報酬」も、指標と検証基準が漠然としていて、住民が持つ知識を特定するプロセスも特定していない。
ほかの原則は確かに以前のMC&Iよりも詳細な記述があり、木材利用効率、精神的・文化的な場所、遺伝学的な多様性、化学物質の使用、違法伐採、森林火災、モニタリングと評価、保全価値の高い森林など、以前触れられなかったテーマに言及している。しかし、実証基準のリストが不十分で指標が具体性を欠く点はMC&I 2001年版と同じである。
(次号に続く)
参考文献:
Wong, Meng Chuo (IDEAL), "A Report on the Malaysian Timber Certification
Scheme," January 2004 (http://www.rengah.c2o.org/assets/pdf/de0092a.pdf)
MTCCホームページ:http://www.mtcc.com.my/
MC&I 2001年版:http://www.mtcc.com.my/documents/mc&i.pdf
MC&I 2002年版など:http://www.mtcc.com.my/documents/index.html