熱帯材を使わない家づくり―マンション編
吉永卓
これまで、「住宅冊子改訂の現場から」として、国産材を使った家づくりの実例紹介をしてきましたが、今回はマンション編です。都市部では、これまで紹介してきたような国産材を使った家づくりをしたいと思っても土地が高いことから、マンションやアパートなどの集合住宅に住まなければならないケースも多いと思います。今回紹介するのは、建築家の辻垣正彦氏(辻垣設計事務所代表)が、横浜市内で設計を担当した「シェ・ノートフ」です。この名前の意味は「私の家」という意味で、施主のH氏が辻垣氏の手がけた木造住宅を建てた知人からの紹介により、国産材を使ったマンションとして実現したものです。天井には飯能の杉の赤味の板12ミリ厚をフシ有りの無塗装で使用し、窓枠など造作には桧30ミリの板を150ミリの幅広板として使用しています。桧の造作もフシ有り材で従来の造作材の考え方とは、全く異なるものとなっています。フシ有り材とは言え、抜けフシは補修して塞いだり、乾燥には充分配慮しています。床は北海道のタモ材15ミリに亜麻仁油の仕上げです。この物件が賃貸として建設されている為に、床にはキズのつきにくい広葉樹を使用することになりました。下地材も杉を使用、通常は軽天など軽量の鋼材を使用する部分にも木材を使用していますが、下地は宮崎材と産地を使い分けています。押し入れは天井の残りの杉板を使用しています。型枠もモクセラという間伐材を原料にした断熱材兼用の打ちこみ型枠を使用しています。
このように、国産材をマンションで多用する例は非常に少ないのですが、今ちょっとしたブームになっている建築家による国産材住宅のマンション版として注目できるもので、特に玄関から室内側を見た感じは正に一戸建ての国産材住宅の雰囲気を充分に再現しています。辻垣氏は設計にあたり図面の特記仕様で、木材の使用はすべて国産材とすること、型枠には熱帯材使用不可と明記したことで実現できたのだが、その背景には施主のH氏が環境に配慮したマンションを建てたいと思い、それを実現できる建築家と出会えたことがあります。施工にあたった松井建設では、施主の要望があれば実現可能で施工には時間が掛かったのですが、大工、建具屋にとってはやり甲斐のある現場で仕事量としもまとまったものでメリットもあったのではないかと話しています。鉄筋コンクリート造の4階建て、19戸で延べ床面積は約1300平方メートルの規模で大工10名以上が現場にはいり1,2階と3,4階に分かれて施工をおこないました。コンクリートも通常よりも硬い、水・セメント比45%のものを使い強度も330 kg/m2(通常は240 kg/m2)とアップしていますが、これが躯体の水分を低くしマンションの木工事で湿度による木材の狂いが生じることを避ける上でも効果があったようです。シックハウスで問題となるホルムアルデヒドの室内濃度も引渡し前の測定では、0.01ppm(ホルムデジタルキャッチャーによる簡易測定)と極めて低い値に留まっています。住戸は3LDKなど5パターンのバリエーションを持ち、横浜市の家賃補助制度により家賃はなんと6万から7万円というから更に驚きです(京浜急行線上大岡駅からバスで10分くらいの場所にある)。建設コストは通常のマンションに比べると10%程度割高になっているというが、国産材を多用した健康的なマンションの建設が可能だと分かることで、他への波及効果も期待されています。
《辻垣建築設計事務所》
東京都品川区西五反田8−10−14 イトーピア西五反田206
電話03−3492−4245
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