林産物の自由化は森を守るか?
高山楽
 
 
 
 今年11月にアメリカ・シアトルで開催される世界貿易機関(WTO)閣僚会議に向け、森林NGOの動きが活発になっている。134ヶ国が加盟するこのWTOでは、11月に林産物の関税の撤廃などが話し合われる予定であり、もし今回の会議で関税の撤廃が合意されてしまえば、森林に対する様々な悪影響が出てくることを各国のNGOは危惧している。特にアメリカは、この関税の撤廃を林産物自由化協定として11月の会合以前に合意させてしまおうと動いており、NGOはそれは「グローバル自由伐採協定」であるとして批判を強めている。
 そもそも、自由化の話しは1994年のGATTウルグアイラウンド交渉に端を欲している。当時、新聞でも話題になったように、ウルグアイラウンド交渉では農産物が大きな焦点となっていたが、その際、アメリカなどは林産物についても関税の撤廃を求めていた。しかし、EUや日本の抵抗が強く、合意はできなかった(関税引き下げは行われた)。
 この流れは1997年11月、カナダ・バンクーバーで開かれたAPECの場にも持ち込まれ、アメリカは再び自由化を日本に迫ることになった。この際、日本は林産物の自由化交渉に反対したが、最終的には15分野が自主的に自由化をおこなう対象として合意されてしまった。この15分野の内、9分野が優先分野とされたが、その中に林産物も含まれていた。この流れは次のマレーシア・クアラルンプールでのAPECにも引き継がれ、再び林産物の自由化についてアメリカが関税撤廃などを求めていたが、日本はAPECが交渉の場ではないことを主張し続けてなんとか合意を回避してきた。その結果、林産物の交渉はWTOの場に持ち越されることになった。

世界中のNGOが林産物の貿易自由化を危惧している!

 林産物の自由化の流れに世界中のNGOが反対を表明しているのは、自由化によって森林破壊がさらに加速されるという懸念があるためである。例えば木材などの関税が撤廃された場合、世界の木材消費量はどうなっていくのだろうか?それによって森林破壊が今以上に深刻になることはないのだろうか?こうした懸念は、貴重な森林が輸出のために売り飛ばされ、地元の住民が森から追い出されている現状を目の当たりにしてきた人々の問いかけである。
 これらの問いに答える一つの調査結果がある。米国森林製紙協会は、関税が撤廃されれば世界の林産物の消費が3〜4%増加し、日本では一人当たりの林産物消費量が38〜42%も増加するだろうと予測している。こうした消費の拡大は、確実に世界中に残った自然林を破壊することにつながることは想像に難くない。太平洋環境資源資料センター(PERC)らは、その声明の中で、「林産物の貿易自由化は消費を拡大させ、森林管理の水準を弱め、環境規制をはぎ取ることになる。この自由化の協定は、結果として森林生態系への圧力を増すことになるだろう」と述べている。
 また、多くのNGOが関税の撤廃と同時に懸念しているのは、もし関税の撤廃がなされてしまえば、その後に非関税障壁の話し合いもおこなわれる可能性が高いということだ。非関税障壁とは、文字通り関税以外の貿易を制限する要素を指しているが、それには例えば資源保全目的の輸入制限措置や、害虫の国内への侵入を防ぐための輸入禁止などの措置、エコラベル、自治体の熱帯材使用削減・禁止の取り組みなど、環境保護のための取り組みも含まれてしまう。もし、非関税障壁についての話し合いが進められていけば、破壊的な伐採がおこなわれた森林から輸出される木材を差別的に扱うことも極めて難しくなってしまう。
 アメリカのNGOは、今年7月19日、アメリカの通商代表部のバシェフスキー氏に対する声明に合意し、一致団結して林産物自由化に反対している。地球の友、グリンピース、世界自然保護基金(WWF)など、アメリカの中心的で政治的影響力の非常に強いNGOがこれほどまで一緒になって声明を発表するのは滅多にないことで、アメリカのおよそ数百万人を代表した意見になる。声明の中で、賛同団体は、森林を商品としてだけ捉えるのではなく、保全することを訴え、その為の環境アセスメントを市民参加の下でおこなうことを求めている。
 このような流れの中で、貿易自由化推進派の米国の担当者、ドン・フィリップ補佐は次のように述べている。「もし貿易障壁を下げさせることさえできれば、各国は長期的視野に立って、環境に優しいアプローチをとるようになり、国内の環境政策をそれに応じて作るようになるだろう」(IPS通信)。このような根拠のない主張がいままでにも多くの国々からおこなわれてきた。

米国、EUはアセスメントの実施に同意

 一方、アメリカ政府は、上述のようなNGOの強烈な要求に対しアセスメントをすることに同意している。EUでは、独立機関による社会・環境アセスメントをおこなうために競争入札をおこない、マンチェスター大学のグループがEUの予算でアセスメントをおこなうことになった。この入札には世界自然保護基金(WWF)などのNGOグループなども参加しており、最終的にはマンチェスター大学が落札したものである。シアトルの会合までに3段階に分けて評価をおこなうとしており、EUもこの結果如何によっては立場を変更することも辞さないと言っているという。
 このように,EU、アメリカといった関税撤廃を好意的に捉えている国々においてもアセスメントが同意され、実施され始めている。それに比べ、環境を考慮に入れることを主張する日本は,未だにアセスメントをおこなうことに同意すらしていない。本来ならば、森林の公益的機能などを盾に自由化に異議を唱えてきた日本政府が先頭を切ってアセスメントをおこなわなければならない筈である。この日本の態度は世界的に見て「自由化に反対する本来の目的は環境にはないのではないかという疑いを他国に持たれても仕方がない」(日米NGOと林野庁との会合におけるNGO側からの指摘)のである。

 様々な主張が錯綜する中、今、本当にしなければならないのは、貿易自由化が社会や環境に与える影響を各国が充分に調査、評価することであり、それまで林産物の自由化交渉を先送りすることである。そしてより長期的には,貿易自由化の政策を決定する前に、それが社会や環境に与える影響を評価できるような政策評価の枠組みを、WTO加盟国の間で作り上げていくことである。自由化は今や経済のみならず、世界中の環境と社会にも甚大な影響を及ぼすものである。少なくとも、「自由化がそれらに(良くも悪くも)影響がある」という世界的な認識がある以上、自由化を経済だけの問題として考えることは許されない。
 世界の残された森林はまさに今、崖っぷちに立たされている。いま最も重要なのは、焦って林産物の貿易自由化(関税撤廃を含む)をしないことである。交渉を始める前に、新しい政策が各国の社会、環境に与える影響を市民の参加の下で充分に評価すること、これを何としても実現させなければ,残された森林の将来は人間の欲の渦の中に巻き込まれていってしまうだろう。□

関連情報が以下のウェブページに掲載されています。
http://www.kiwi-us.com/~scc/wto/


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