自治体キャンペーンは負けない
−自治体の熱帯材使用削減策への、林野庁の動き−
浦本三穂子


1.林野庁が全国アンケート

 それは、ひとりの自治体職員からの1通の電子メールから始まった。その職員は、今年1月に林野庁の木材貿易対策室が、全国の自治体を対象に熱帯木材使用削減に関する施策についての実態調査を実施していることを知らせてくれた。さらに、自治体の熱帯材使用削減を好ましくないとしている林野庁の見解は環境保護の動きに逆行するのでは?と疑問を投げかけ、さらにこのアンケートは自治体に圧力を感じさせるものであったと述べている。
 そのアンケートは、昨年11月の国際熱帯木材機関( ITTO )が採択した決議2に基づいたとされている。その決議2は「持続可能な森林経営に必要な資金獲得のために、木材貿易は肯定的な役割を果たしうる」という認識のもとに、熱帯木材の市場アクセスの障害を取り除くことや、上記の認識を自治体等に知らしめることを加盟国に促すこととしている。もって回った表現がされているが、つまりは熱帯材ボイコットはけしからんということをいうために熱帯材貿易を正当化する根拠をひねり出そうとしているのだ。そしてこのアンケートは、現状把握とともに自治体に対して熱帯材ボイコットをしないようにとの圧力をかけることがその目的のようだった。
 これを聞いて、今までこつこつと市民グループが積み重ねてここまできたキャンペーンの成果が、林野庁の圧力でがらがらと崩れてしまうのではと不安がよぎった...

2.林野庁とITTOとの会合

 SCCは、林野庁の行為とその根拠となったITTOの決議に様々な疑問を持ったので、他の森林関係NGO(JATAN、パプアの会、ウータン、 MOK)とともに林野庁とITTOへ質問状を送り、双方それぞれと会合を持った。
 林野庁との会合の焦点のひとつは、林野庁から自治体へ熱帯材消費削減せぬよう圧力をかけたのか否か、もしかけたならそれは地方自治への妨害ではないかという点である。林野庁の説明は、「自治体は自治権があるので、彼らに対し熱帯材ボイコットを止めるようにと強制することはできないしやろうとしているわけではない。単に情報提供しただけだ」。しかし私には圧力であると思われた。中央省庁からいわれればやはり自治体は躊躇するではないか。現に冒頭の自治体職員は圧力を感じたといっている。  さらに世界貿易機関(WTO) という厄介な問題もからむ。林野庁は「しかし都道府県はWTOの協定の対象であるので特に強く伝えた」。
  WTO の協定では、内外無差別の原則つまり輸入品も国産品も平等に扱わねばならないということになっているので、ごく簡単に言えば、熱帯材についていえばこれを他の外材や国産材と区別してはならないということになる。林野庁は、 ITTO の決議に基づきこのアンケート調査をしたとしているが、それは単なるきっかけであって ITTOよりもWTOを意識しているように見受けられた。それなら国産材利用促進のための補助金はWTO違反になるのでは?という当方の質問に対しては「実際には行われているようであるが、それは違反である。」とした上で「だから国産材利用振興策はWTOにひっかからないところでやるしかない」。
 既に林野庁内部で矛盾が生じており担当者もそれを苦笑しているようだった。内外無差別などというWTOがおかしいのだが、それを遵守させようとする林野庁の姿勢の陰には、日本の木材産業や輸入業者の利益に反することをしたり、マレーシアやインドネシア政府との間に貿易に関してトラブルを生じてはいけないという基本方針があるのだろうか。それともうひとつ、担当者として国際会議に出ていかなければならない本人としては、熱帯材生産国からの批判にさらされたくないという事情もあるように思われた。
 なお林野庁が行ったアンケート結果は私たちには大変魅力的であるので(全国規模の自治体キャンペーンの成果調査など私たちではまずできない)、提供をお願いしたのだが、公表を前提としていないという理由で断られた。
 ITTOとの会合では、彼等の基本的な姿勢、つまり「木材貿易は森林の経済価値を増すので、森林保全に貢献する。経済価値がなければ森林は農地に転換されてしまう。」という持論を確認するにとどまった。2000年目標(西暦2000年には持続可能な森林経営により採取された木材のみを貿易の対象とするというITTOの目標)については、既にこれに向けて各国に動き出していることからこのプロセスを評価してほしいということだった。ある目標に向けて努力を始めたからこれを評価せよというのは、世の中ではほとんど通用しない言い分だと思うが、2000年目標とは文字通り目標であり絵に描いた餅であることを再確認した。

3.これからの動き

 林野庁の言うように、都道府県がWTOの対象になるとすると、それは正直いって少々手痛い。4か月ほど前の「熱帯林保全のための全国市民会議」でも、まず都道府県をターゲットにして方針を出させ、その後市町村へはたらきかけると効率的であるという話をしたばかりだ。自治体は、林野庁の圧力(彼らいうところの情報提供)にとらわれず今まで通りの熱帯材削減策を持ち続けて頂きたい。そもそも、自らが熱帯林破壊に加担しないために熱帯材を使わないということを決めたのだから、規則が変わったからという理由でその信念を翻してしまうのはおかしい。
 また今回の件が、熱帯林破壊に寄与しないための熱帯材不使用という当り前のことがWTO違反になるのであれば、WTOの内外無差別という原則がおかしいということに多くの人が気づくきっかけとなればよいと考えている。最近「マサチューセッツ・ビルマ法」の話をきいた。米国のマ州では、公共機関の物品等の購入の際にビルマでビジネスを行っている企業からのものは買わないと決めているのだ。ビルマの軍事政権を支持しないという市民の気持ちの具現といえるが、これが現在WTO違反であるとの非難をうけているという。 WTOは、このような市民やその集積である自治体の意思までも蹂躙しようというのである。
 一方、自治体の力が強いドイツでは現在300〜400の自治体が熱帯林消費削減策をとっており、中央政府や州政府が圧力をかけても自治体はそれを許さないときいている。ということは、自治体とそれを支える市民の強力な意思の前にはWTOの内外無差別という暴論も陰を潜めてしまうようだ。
 現在、SCCでは他のNGOとともにITTOとWTOに関する対応についての連絡会を持っている。ここで今後もこれらの動きをウォッチし必要な行動をとっていくことにしている。ITTOが気にしてくれるほど自治体キャンペーンが成果をあげたということに、私たち市民グループは自信を持っていいのかもしれない。そのキャンペーンも現在様々な課題をかかえており、まさに再考すべき時を迎えている。今後はこれらITTOとWTOの動きも視野に入れながらの再考が必要だろう。


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