1995年連続講座第2回報告
<熱帯林破壊の犯人は誰だ>

井上真氏6月17日講演より


1.熱帯林の消滅について

 では、現時点で私の考えていることをお話したいと思いますが、まずその前に、「森林がなくなる」ということの定義をはっきりさせたいと思います。森林のなくなる様子は、1980年に出されたFAOの資料によれば2つに分けられています。これが、『森林の消失』と『森林の劣化』の2つです。この『消失』というのは、森林の木が切られて宅地や農地になり、もと森林があった場所が森林でなくなってしまうことです。また、『劣化』というのはまだ木が生えていて森林と呼ばれる土地ではあるけれでも、木が非常に傷ついていて原生林だったときのような価値のないような森林のことをいいます。そうなりますと、森林であるか森林でないかというような区別をどうつけるかということになりますね。現在では基本的に、上空から見た時、一定面積に対して木の葉で覆われている部分(=樹冠)の面積が10%以上のものを森林と呼ぶと定義されています。
 ところが、国連の調査もだんだん複雑になっていまして、今では森林の消失の種類をいくつにも分類するようになってきています。まず、連続的には木がないけれども、より広い面積で考えると森林と定義されるという場所を森林の『断片化』と呼びます。また、上空からみた樹冠に覆われた土地の割合が10%以下で森林とは呼べなくても、少し木がある土地を『その他の樹林地』といいます。そして、木が完全に無くなってしまった、しかし他に有効利用されているわけでもない土地が『非林地』です。要するに、一概に森林がなくなるとはいっても、そこには色々複雑なプロセスがあるわけで、ましてやその原因と言えば、非常に複雑になってくるわけです。

A 熱帯林消失の現状

(1)世界の森林面積の推移

 世界の森林面積は急速に減少しています。これを地域別に見てみますと、先進地域の森林は横ばいの状況にありながら開発途上地域の森林は急速に消滅しているのです。開発途上地域においても、特に熱帯地域の森林は急速なスピードで減少してきています(14頁グラフ1参照)。この世界の森林面積の減少を具体的な数字でみてみますと、FAO(国連食料農業機関)によると、1976年から80年の間は、年間1130万ヘクタールずつの森林が消滅していました。ところが、1980年から90年の間には年間1541万ヘクタール(日本の国土の4割に相当)という非常に速いスピードで森林が消滅しています。

(2)熱帯林の分布

 世界の熱帯林は、主にアフリカ中央部・東南アジア・アマゾン流域の3つの地域に分布しています。これら3つの地域のうちでも、特に東南アジア・太平洋地域は年間消失率1.2%とアフリカ、アマゾンの0.7%に比べて減少のスピードが特に速いと言えます。更に、そのアジア太平洋地域の中でもインドネシアにおける減少のスピードが段突に速いのです。これらは、面積にすればアマゾン地域の消失よりもゆっくりとしたスピードだと言えますが、全森林面積に比べた割合から考えると、森林が完全に消失する可能性が非常に高いということができ、アジア太平洋地域の危機的な状態を示しているといえます(14頁図1参照)。
  こうした深刻な熱帯林の減少が進んでいる地域において、具体的に地域社会にどの様な問題が起き、それをめぐって社会はどの様な状況になっているのかを考えて行くことがこれから大切なことだと思います。

B 熱帯林消失の原因

 熱帯林消失の原因を考えるときは、それぞれの原因となっている要素の関わり合いを互いに考えることが必要です。問題をマクロ的に見てその原因を並列的に並べて考えることよりも、ミクロ的に具体的な一つの地域を取り上げて、そこでどの様な問題が、どの様な要因とどの様に絡み合って起きているのか、という調査がないとわからないことなのです。しかし、実はそういった調査をする人は少ないのが現状です。これからは、そういった調査を色々な人が色々なところで行い、それをちゃんと公表していくことを続けてゆくようにしてゆくべきです。そうでないと本当の原因が分からず、また市民も自分たちはどう行動したらよいかという判断の材料がない、というゆゆしい現状から抜け出すことはできないでしょう。
 私自身はカリマンタンに3年間おりましたが、それでもやはり問題の構造を本当に解明するということは難しいものなんですね。つまり、焼き畑の調査をしても、世の中のバックで何が動いているかと言うことはなかなか解からない、という難しさがあります。政治力学とでもいうそのバックは、私の感覚では政府の高官や会社の偉い方でないと解からないのではないかという感じがして、住民サイドからの働きかけはもちろん大変重要ではありますが、同時にある意味での限界のようなものがあるのを感じています。
 まず商業伐採についてお話ししましょう。非常に大きな大木をチェーンソーで切り倒し、6〜8m間隔で切り刻むとそれを林道に運んでゆきます。林道の土場と呼ばれる場所に一定の量の材木がたまると運んでゆきます。そしてカリマンタンならば川をボートで引いて、やがて下流の川沿いに並ぶ合板工場で加工されます。国ではこういった伐採地の後に植林をしていますがこれも問題を持っています。こういったことをする作業は、国が他の島から職を求めてやってきた人々に住居を与え、専門の作業員としているのですが、ここにもまた問題があるのです。今日ここでは詳しくお話できませんが、伐採の局面と植林の局面で問題の出方が若干変わってくるという現状があります。
 次に一番問題となっている非伝統的な焼き畑についてお話しましょう。一つの形態としてコショウ栽培があります。コショウ畑は斜面につくられ、草はよく刈り込まれます。したがって雨が降ると土が流され、直射日光によって土は固まります。10年以上もその状態が続くと栽培に使われた支柱だけを残して一面の草原に変わってしまいます。このような草原は農地や森林として回復させることは非常に難しく、俗に『緑の砂漠』と呼ばれています。また農地の拡大も問題となっています。換金作物やプランテーションなどによって起こる農地の拡大も森林消失の原因となっています。だからといってこのような栽培をしている農民たちを責めることはおかしいと思います。彼らをそうせざるを得なくしている社会システム、および経済システムを変えてゆかないとだめだと考えていす。


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