

被害を被る森とひとびと
長期間にわたって日本の膨大な熱帯材需要に応えてきたサラワク州では、急速な熱帯林破壊のために、森林に依存して生きてきた先住民族の生活が窮地に追い込まれています。サラワク州では人口の約半数が先住民族であり、その多くは移動耕作で陸稲や野菜を作り、また川の魚や森の野生生物を生活の糧としています。そこへ伐採が入り込むようになって人々の暮らしは苦しくなりました。重要な蛋白源であった鹿や猪の数は減少し、また伐採跡地では雨期の間、相当量の表土の流出が引き起こされ、河川は汚濁し漁獲量は激減しました。そのほか伐採が先住民族にもたらした社会的な悪影響や精神的苦痛は枚挙にいとまがありません。このような状況の中で、1987年、遂に先住民族は自らの体を張って伐採に反対する行動に出ました。伐採道路に自分達が立ちふさがることによって伐採業者を締め出そうとしたのです。このような道路封鎖は警察等の弾圧を受けながらも今日まで度々サラワク各地で繰り返されています。最近では1999年1月に、サラワク先住民族のひとつであるプナン人による林道封鎖が報告されています。

このようにサラワク等の各地で、貴重な生態系と現地住民の生活という尊い犠牲をともなって日本へ持ち込まれる熱帯材。しかし日本における熱帯材の使い方は大変浪費的なのです。こうして日本に輸入された木材は何に使われているのでしょうか?熱帯木材の約5割は住宅やビルなどの建築分野で主に合板として使われています。そのうち15%程度がコンクリート型枠として使われてます。コンクリート型枠とは、建設工事等でコンクリートを固めるために使う枠のことで、3回くらいは転用されていますが、基本的には使い捨てで、最も浪費的な使い方と言えるでしょう。合板の残りの部分は、建物の下地材等に利用されていると考えられ、これらは型枠よりはましであろうが建物の寿命が20〜25年という日本の現状を考えると、やはり浪費的な使い方といえます。

驚異的な住宅着工数と捨て続けられる住宅
日本の異常ともいえる木材消費の背景には、異常な住宅着工数があります。近年の東南アジアをはじめとする日本への主要な木材供給国における伐採量は、日本の年間住宅着工数と深い関係があると考えられています。戦後、年間住宅着工数は徐々に増加し1968年には年間百万戸を越え、その後もほぼ年間百数十万戸を維持してきました。しかし、いわゆる日本の大量生産、大量消費、大量廃棄型の社会構造(「スクラップ&ビルド」など)によって、住宅着工数の半分に相当する住宅が取り壊されており、住宅のストック増加は建築される数に比べずっと緩いのです。このような状況の中で住宅用に熱帯材等木材の大量輸入が続いてきました。一方で大量生産のきかない国産材の生産者は円高や人手不足により、人工林の維持管理もままならず、日本の木材自給率は年々減少するという事態に陥っています。
熱帯材を使うことは環境や先住民族の権利という観点から問題が多いということを、サラワクを例にあげ述べてきましたが、問題が多いのは熱帯材だけではありません。最近は国内で製造される合板の4割弱が針葉樹になっていますが、その原料としてはシベリア材が最も多く、次いでニュージーランド材となっています。シベリア材も貴重な原生林から切り出されているので環境上望ましくないことが環境NGOからも指摘されています。ニュージーランド材は植林木が多く比較的環境負荷は小さいと思われますが、これについてもきちんと調査する必要があるでしょう。例えば輸送によるエネルギー消費を考えれば、木材を輸入することが本当に良いことかについてもよく考える必要があります。熱帯材を使わないようにすることを考える上で、何を代替として使うかを決めるには、環境的・社会的影響に充分に配慮する必要があります。

そこで、現状で代替として望ましいと考えられるのは国産材です。それは、日本では森林面積の4割が人工林になっており、これらのうちの6割は木材生産を目的として植えられたもので現在伐採可能な時期を迎えつつあるからです。したがってそれを使って林業を振興させることが地域自立と国土保全につながります。また輸送は国内のみなので輸送距離が短くそれに使われるエネルギーが少ないのです。外材の場合、薬剤なしには耐久性を保てない恐れがありますが、日本の気候風土に合った国産材は比較的耐久性があり、ヒバや桧などは病虫害にも強い樹種です。そしてなによりも、消費者である私たちが生産の現場が見える範囲に生活しているということは、木材消費者としての責任を果たすのに非常に重要なことです。ただ、国産材であっても、原生林から伐採した木材を避けるべきでしょう。
むろん必要以上の量を使ったりすぐに廃棄したりしてよいわけではありません。国産材の利用促進は、伐採−植林のサイクルを適切に保ち二酸化炭素吸収量の多い若木を保持するという意味もありますが、さらに廃棄して焼却するサイクルまで早めては二酸化炭素の固定も元の黙阿弥です。また廃棄物の面から見ても、建設工事に伴って排出される建設廃棄物は、産廃の最終処分場において4割を占め、産業廃棄物の不法投棄の9割が建設廃棄物となっています。最終処分場の残余容量がますます逼迫し大量の建設廃棄物が社会問題となっている昨今、私たち市民には住まいを長く大切に使うことが求められているといえるでしょう。
1990年よりサラワク・キャンペーン委員会を含め日本の市民グループは、全国各地で自分たちの自治体に対して公共事業に熱帯材を使わないようにという働きかけを行ってきました。その結果、全国で約150の自治体が熱帯材の消費削減の意義を認め何らかの政策や方針を出すに至っています。これらはほとんどの場合、消費削減の対象は最も浪費的な使い方と上述したコンクリート型枠です。このキャンペーンはある程度の役割は果たしましたが、状況を変えるという意味では充分とはいえず、今後熱帯材消費削減の働きかけを、公共事業のみならず民間へも、また型枠のみならず下地材等他の用途へも広げていくことが必要であると私たちは考えています。そして作られたのが、住宅における熱帯材使用削減のヒントを載せた、市民のためのこの小冊子です(1994年初版発行、2000年改訂)。
