ビールの友001
真夜中の柿の種
1996.08.26
柿の種にはちょっとこだわりがある。お気に入りの銘柄はやはり「亀田の柿の種」だ。
柿の種の歯触り、入ってるピーナツの量など、「さすが老舗!」と感心させられてしまう。他社のものだと、柿の種にパリパリ感がなかったり、ピーナツが妙にしけった感じだったりして、はなはだよろしくない。パリパリっとやってグイッとやる。この呼吸が大事だ。パリパリしてなかったり、これでもかとピーナツが多い柿の種は、口に入れたとたんに違和感がある。特に、サービスのつもりかなんか知らんが、柿の種とピーナツが1対1くらいで入っている奴はよけいなお世話である。
僕のうちは駅から歩いて15分ほどかかる。近くにある店はセブンイレブンとファミリーマートだ。近くといっても両方とも歩いて5分くらいかかる。一昨年だったかセブンイレブンができて、ここには亀田の柿の種がある。従って夜中に柿の種が切れているのに気がついたときには、今ではここに買いに行けばよい。ファミリーマートは前からあったが、ここにはファミリーマートの柿の種しかない。
セブンイレブンがなかった当時、夜中に突発性どうしても柿の種が食べたい症候群に陥ると、駅を越えたところにあるスリーエイトというコンビニまで行かなくてはならなかった。ここにはお酒のたぐいも置いてあって、非常に便利である。「疲れる」ということを別にすれば。

うちから駅まで行く途中には、井の頭公園というでかい池のある公園がある。自転車で行こうと思うと、池にかかっている橋を避けて遠回りすることになる。この橋は変化をつけるためなのかなんなのか知らないが、池の縁からいったん階段で上に上がり、ちょっと進んですぐに階段で下がって中之島というか、ボート乗り場&水生動物園入り口に到達する。中之島を通り過ぎ、さらに橋を渡っていくと、途中、ここから景色を愛でなさいとばかりに展望場所のように橋が高くなっているところがある。この前後も階段。さらに橋を進んで、池の縁でまた階段があるという誠にややこしいものなのである。
今ではこの橋は自転車が通れるようにスロープがついているが(ホントは自転車のためではなく、車椅子のためである)、その当時は階段だけで、しかも突破しなくてはならない階段は5個所もあったのだ。下りは尻の痛いのを我慢すればいいが、登りとなると、いちいち自転車を降りて、よっこらせと自転車を持って階段を上らねばならない。このやっかいを避けるために池の回りを走る遊歩道に沿って自転車で大回りすることになる。
街灯はあるものの、西側の遊歩道は特に暗く、夏の間はアベックにもってこいのポイントとなっている。この中を自転車で突破するというのが、なかなか疲れる作業なのだ。
今はレンガ敷きだが、当時は砂利道だったりぬかっているところがあったりして、ライト無しでは走れない。しか〜し、へたにライトをつけて走っていると思わぬところで思わぬ光景を白日のものにさらけ出してしまったりすることがある。遊歩道はくねくねと走っており、道なりに曲がるために自転車を傾ける。するとライトがいろんなことをしているカップルを照らし出したりするわけですだ。まぁ、たいていは抱き合ってキスしている程度なんだけど、中には結構大胆なことをしているカップルもいたりして、そういうのを照らし出してしまったときはホントに困る。まさか「柿の種を買いにいく途中なだけで覗きとか意地悪とか、そーゆーんじゃないんですよー」と言って歩くわけにもいかない。仮に言ったとして、よけい疑われるのがオチだ。
照らされたカップルの反応というのもさまざまで、キス程度の場合はほとんど意に介していない。なんの反応もないことが多い。ん、明るいなといったような軽めの反応さえなしに、ディープにことを続けるのが一般的である。こちらもどーぞどーぞそのままお続けくださいという気持ちである。
スカートがまくれ上がって男の手が胸のあたりにあったりした場合、女性が電光石火でスカートをたくしおろし、座りなおすところが見られたりする。そのすばやさは尋常ではない。まさに一瞬の早業である。男の方からは「このバカ野郎、いいとこだったのに」という感じの視線が背中に突き刺さる。感じがする。その時にはこちらは通り過ぎているのでわからない。こういう時のこちらの気持ちは「悪いことしちゃったな」と「ちくしょーいいことしやがって」という気持ちと半々である。
もう一つ、「早く通り過ぎよー」とも思っている。男の方が恐いカンケーの方だったりすると、へたにタラタラ走っていると後を追いかけられそうで、恐い。偶然なんだよー、悪気はないんだよーという意味あいもあって、なるべく速く走りすぎるようにしている。ちなみに僕の自転車は黄色のママチャリで、変速機はない。
何とかスリーエイトまでたどり着き、柿の種を買い、見たことのないビールがあったりするとついでに買い込んで、また自転車にまたがる。この瞬間である。厭世感がじわっとわき出してくるのは。「俺はただ自転車に乗って買い物をしに来ただけなのに、なんで謝るような気持ちになってなきゃいかんのだ!」と思っちゃうのだ。また同じルートで帰るのかと思うとガックリくる。気力が萎えてしまう。
無事、柿の種を買って帰ってきても、ぐったり疲れている。フツーのカップルだけでこの疲れ方なんだから、真夜中のカーボーイなんか見ちゃったりしたら、ホントーに疲れはてるだろうなと思う。
そんな目に遭わないうちにセブンイレブンが近所にできてくれたのでホッとしている今日この頃である。
ま、少し残念な気もするが。
そのうち強力なライトとBMXかなんか買って、真夜中のライティングボーイぐらいはするかもしれない。その時にはせめてピンクのハート型に照らしてあげようと思う。